Lunatical life in broad daylight
へにょ~~~…… リ ツ 。ヮ ツ。
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ゆらめきのプレリュード①
序章 からめたゆびに

 ありきたりな一日になるはずだった。いつもの時間にアラームで目を覚ました私は、20分で身だしなみを整えて30秒の朝食を取る。そして、制服のポケットに全課題を入力した生徒手帳が入っていることを確認したら、指定の手提げバッグを持って寄宿舎を出た。
 毎日、寸分も違わない、きわめて規則的な一日が、今日も始まる。
学園正門のセンサーを一度でも通過すれば、生体認証による登校確認と、生徒手帳を介した課題の提出、受け取りが完了する。それだけが要件の全てだった私は、裏門からさっさと学園を離れ、ゆるやかな坂道を登りはじめた。
 制服姿で昼間から出歩いても、特に、声が掛けられたりすることは無い。視線を向けられるということも無い。私にとってそうであるのと同様に、他人にとっても、私は互いに透過する不干渉の存在に過ぎなかった。赤色に塗り分けられた歩道を十五分ほど登っていくと、見えてくるのは人気の少ない公園。そこが、私のお気に入りの――というより、結果として、いつのまにかたどり着いてしまう場所だった。

『生体データ認証完了。市民コードGHSP804432、星奔(ほしばしり)純理(じゅんり)と確認。現在時刻は8時42分、速やかに授業に戻られることを勧告します』

 公園のセンサーがアップデートされたのだろうか。生徒手帳を休止状態にしていたにも関わらず、石柱型のコンタクトフェイスが私に語りかけてくる。こういった気に障る文面を事務的に伝達するには、人の形を取るよりも非生物型の方が反感を買いにくい。しかし、理解できていても、それでも多少の不快感は避けられない。私は半ば無駄だと分かっていながらも、丁寧に返事をよこしていた。
「余計なお世話。コードから私が全課題S評価の特待生待遇であることが認識できる筈よ。貴方が納得するかどうかに関係なく、私は裁量権の枠内で自由に行動することが出来る」
『――そのようですが、現時刻において、この場所にいる合理的な理由が報告されていません。一般的な行動との不整合は、社会的不安を誘発する危険性を持つ準問題行動として、事務局に報告します』
授業に出る必要性をいちいち聞いてこなかったのは余計な話が省けたけれど、その後は型にはめたような回答。私は目の前にいる、型番も知らない機械の融通性を、もう少しだけ試してみることにした。
「学園の中に何があるっていうの? 授業は既に全単位をクリアしているし、十数年後までも予定調和的に誘導されていることも気づかずに、流行の服や低俗な娯楽にばかり眼を凝らしている同級生に付き合うのは時間の無駄としか思えない。何もかもが均一な生活、均一な日課。均一な自然。何もかもがつまらなくなって、学園とは異なる時間の中に身を置きたくなったの」
「はい、全てが均一かつ最適化された、最良の環境にあるのです。また、貴方の発言には疑問点が含まれています。この場所と学園は同一の標準時にありますが、何故違う条件化にあると言えるのですか?」
 自律装置が人間に質問するなんて珍しい。通常では、人間は故意であれ、過失であれ、嘘、もしくは偽の情報を与えてシステムの混乱を招くことが往々にしてある。ゆえに、一般的には、編集キーを持った開発者の側からしか、内部機構を更新することはできない筈だった。推測でしかないけれど、実験的に生体認証装置を応用した嘘発見機能を持っているか、単純な嘘なら即座に見破ることができる程の豊富な情報、もしくは、亜種生命体と同程度の論理演算機構を備えているのだろう。
そろそろ、機械の相手をするのにも飽きてきた。私は少し意地の悪い宿題をこの風変わりな機械に与えると共に、この場を後にすることにした。
「それが分かるようになったら、私が間違っていないことも理解できるから、そこでじっくり思索に耽ってて。私は、そこで私について考えているから、余計な口はきかないこと」
まだ何か言いたげなオブジェを後に、私は石畳を蹴って一段高い広場に辿り着く。そして、手に提げていたバックをベンチに置いて辺りを見回した。
 大昔、公園は動物を連れてきて遊ばせる場所だったと歴史資料館のアーカイブスで勉強したことがあるけれど、今は衛生上の観点から、動物は高レベルに隔離された空間を有する施設を有していない限り飼育が許可される事はない。公園の中に存在することが許されるのは人間と遊具と限られた植物だけだった。
 こんな時間には人気すらないから、私だけが、この区切られた空間全体を独り占めしていることになる。私は別にこれといった目的を抱えているわけでもないので、私はバッグの置いてある横に腰を下ろすと、背をそらして木々の木漏れ日を視界のうちに入れた。
「全てが均一かつ最適化された、最良の環境、ね・・・」
 いつもと同じ青い空、まぶし過ぎず、薄暗さ感じない光量に調整された、人工の大気の青。それらを感じながら、ついさっきコンタクトフェイスの話した言葉を思い起こす。
 人類の故郷、地球には一定の周期で気温が変動して、居住環境が不適切な状態に変動したり、作物の収穫に大きな影響を与えたりする、『四季』と呼ばれる気候変動があったというけれど、人類が宇宙に拡散して閉鎖居住空間としての人工天体を造りだすに至って以来、人類は一生を同じ気温、定常的な気象、昼の長さも夜の長さも常に同しい世界に生きることになった。それでも、人は何もかもが既成化されたかのような世界の中で幸せを感じている。『風雨』といったものを気にかける必要も無いし、確率でしか予測ができない毎日を過ごすことには耐えられないという。
 しかし、私は何もかもが決まっているこの世界が、恐ろしく色褪せたものに思えてしまっていた。そして、私自身の未来まで、全てが決められてしまうかのような感覚を抱くようになり、そのことを恐ろしいと思った。だから、こんな場所に足を運んでいるのかもしれない。
 そこまで考えたところで、ちょっと口が寂しくなってきたので、手提げバッグの袋を開いて、無色透明のかち割りが一杯に詰まった包装容器と、水滴で少し湿り気を帯びた水筒を取り出す。と、そこで初めて隣のベンチから同年齢か、もしかしたら私よりも一、二年したかもしれない背の低い女の子が、こちらを見つめている事に気がついた。
 芽吹いたばかりの新緑のような萌黄色の上着に、クリーム色のフレアスカートを幅広のリボンベルトでゆったりと結んでいる。あまり肌を見せたくないのか、白い厚手のストッキングで膝から下を包んでいる。柔らかくつややかな髪に、柔和で大きな瞳がひときわ目立った、愛くるしい容姿。しかし、重要だったのは、彼女の姿形ではなかった。
瞳に姿を映した瞬間、私は身を乗り出して彼女に近づいていた。そして、彼女もその場から一歩も動くことはなく、ひときわ大きく見開いた目で私のことをただ見詰めていた。そして、私の意識、直感、理性、本能――いや単純に一言では表現できないけれど、私の本質的な部分が全てを支配してしまって、私はシグナルに従うままに、彼女の指先に指を絡ませる。

  ゆらっ・・・・・

 不意に磁石に惹かれたように、二人の時は混ざり合った。ひとつに融けてゆらめいてから、春風に溶けて流れていった。
 石柱型のコンタクトフェイスが星奔純理並びに身元不明者一名の失踪を感知・通報したのは、二人が指先を絡めて触れ合ってから、数十秒後のことだった。




コメント
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気になったので読ませていただきますです。

感想をお楽しみに!
2010/01/21(木) 20:20:54 | URL | by架空の大空 (#-) [ 編集]
 うみ゛ゃああああっ!?
 一昨年に埋めた作品ですので、いま読み返すと恥ずかしすぎな出来なのですけれど、かわいがってあげるとこの子も浮かばれると思います…… ッリ ;⌒ヮ⌒)ッ

 そろそろ新しいのを書かないといけないのですけれど、基礎トレの最中なのが悩ましいところです。
2010/01/22(金) 07:02:42 | URL | byすずっち (#BhkiWIsU) [ 編集]
うふぉう・・・
すごい世界観ですね。これは楽しみだw自分も昔小説は書いてましたけど、改めて読まれると気恥ずかしいですよね。

だがしかし私は引かない(笑)
2010/01/23(土) 02:57:50 | URL | by架空の大空 (#-) [ 編集]

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