Lunatical life in broad daylight
へにょ~~~…… リ ツ 。ヮ ツ。
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ゆらめきのプレリュード②
第二章 ゆめみるように

 寒く、澄み切った空を見ていた。漆黒の闇に浮かべられた、幾千もの 星々の輝き。
 それは、私の原初の記憶。遥かに遠く、幼いころの記憶。私は小さな 両の手を精一杯に
 伸ばし、届かない輝きをつかもうとする。
 優しく私に語りかけてくる、姿無き声。

 「純理、星は人に時というものがあることを教えてくれた。長くにわたり、時を告げて、
 進むべき方角を示してくれる灯火だったんだ。何ひとつ目印の無い海の上でも、正確な
 時間と星の位置さえ知ることができれば、自分のいる緯度と経度を知ることができた」

 私を抱きかかえていたであろう父か祖父の言葉は、幼子の私には理解できなかった。
 しかし、分からないなりに精一杯に、耳を傾けて憶えようとしていた。

「遠い、遠い昔、私達の一族は天を見つめることで道標の無い世界をゆくための旅路を
 示し続けてきた。その血を継いたお前にも、私達の持つ全ての技術と知識を伝えよう。
 〝時を知る者〟と再び逢う願いが叶ったときの為に。
 彼の者と共に、見失われし路を新たに見出していく、その時の為に」

 あぁ、この時からだったんだ。私が普通の少女として生きることを止めたのは。
 ――違う。きっと、私が生まれる前から、既に決まっていたことだったんだ。


 くすぐったい風が頬をなでる。近づいては遠ざかるように、静かに揺れる木々の囁き。身体の下に感じられる、やわらかな温もりに身をゆだねながら、私はそっと目を覚ました。
「おはよっ、眠り姫の純理ちゃん♪ こんな可愛い子とふたりっきりで 一緒に外でお昼寝するなんて、意外に開放的な性格だったんだね」
 とんでもなく誤解を招きかねない声に目を向けると、私と同じ制服に袖を通した子が両足を伸ばして座り、上半身をこちらに向けながら微笑んでいる。腰近くまで伸ばした明るめの髪に、くりっとした大きな瞳。まだちょっとあどけなさの残っている顔立ちは、好奇心で瑞々しく潤っていた。
 私はこの子を知っているけれど、そこまで確認した時点で彼女の言う『可愛い子』に、自分が身体を折り重ねて眠っていたという事実を、いまさらのように認知する。
「あ・・・ぅ・・・これはね・・・・・気がついたら、こうなってしまってて・・・」
 冷静に話そうとする意思を無視して、身体じゅうが勝手に紅潮していくのが分かる。たとえ、同性だと分かっていても――いや、分かっているからこそなおさらなのか、私は、他人と密着するという行為や状況に、免疫がまるで無い。ましてや、こんな弱点を他人に知られるのは、プライドが許さない。だから、普段は精一杯の演技で隠しているけれど、こんな不意打ちは、あまりにも反則的だった。
「で、この子って誰なの? 私が知らないっていう時点で、うちの生徒では無いみたいだけど、純理ちゃんの恋人でも友達でもないっていうなら、どうして一緒に寝ていたのかな?」
 まず、一から説明しなおすと、この同級生は天原(あまのはら)楓(ふう)。私は、自分から進んで人付き合いをやるようなタイプではないけれど、それでも、入学初日から「生徒全員を友達にする」と宣言したり、学園の屋上から地面に転落したあげくに、「翔ぼうとしたんですけれど、失敗しちゃいました」と笑顔で答えてしまうような変わり者は、嫌でも知らずにはいられない。必然的に、楓の周りにはいつも人が集まっていた。
 こうして、二人でゆっくりと話すことなんて、一度も無かった筈だけれど、楓の脳内では、私もいつのまにか、友達の一人になっているのだろう。
「それは、歴史の偶然がなせる業よ。いま、どことも知れない場所の中で、天原楓が星奔純理の寝起きを襲っている。そんな偶然が起こりうるのなら、私が授業時間中に学園を抜け出した先の公園で、初対面の女の子と惹かれあうことがあったとしても、意識が失われていた間に、このような状況になってしまっていたとしても、全然おかしくはないじゃない?」
 ちょっぴり投げやりな気分で答えながら、身体の下へと視線を戻してみる。そこでは、いつ意識を取り戻したのか、きょとんと目を見開いた女の子が私を見上げていた。
 楓の視点から見ると、まさに、『純理ちゃんが、見知らぬ子を押し倒している構図』が実現された瞬間。
 気持ちの整理がつかないまま、じっと瞳を見つめられて。伸ばされた腕に、絡みとられて。心臓が壊れてしまいそうな私の耳に、初めての声が届いた。
「柏風(かしわかぜ)由良(ゆら)。よろしくね」
 精神のバランスを危うく保ちながらも、私は、必死に思考を維持しようとする。由良と名乗っている目の前の子は、きっと生まれついての私の天敵に違いない。なんとか状況を変えないと、どこまでも流されていってしまいそうな感覚。それが、私の意識の大半にまで侵蝕しようとした、その時。

 ふぁさっ・・・

 頭上から、急に降り注いできた何かが、視界を一瞬にしてミルキーピンクに覆い尽くす。
 さらっとしていて、それでいて、少しひんやりとした、今までに感じたことの無い、独特の感触。その感覚が、私を際どいタイミングで、こちらの世界へと呼び戻してくれた。
「もぅ、私だけ仲間外れにするなんてずるいよぉ。あちちな純理ちゃんは、桜の花びらで頭を冷やしててねっ」
 さくら・・・それって、遺失植物の名前じゃない!?
 人類が自らの揺りかごである地球から離れ、広大な星の海を旅し続けてきた歴程時代の中で、事故によって塩基配列情報もろとも失われてしまった、現在では復元不可能とされている種。
楓の言うとおり、この花びらが、私達の周囲に群生している樹木が、本当に『桜』なのだとしたら、現存するはずの無いものが、存在する場所にいるとしたら。私はとんでもない、想像すらできないような事象に遭遇していることになる。
 私はその場から跳ね起きると、生徒手帳を開いて画面モードを現在位置表示に切り替えようとする。しかし、一面に空白が表示された操作パネルは、全く反応を示さなくなってしまっていた。
「嘘・・・まさか、衛星測位システムからの情報までもが、一切受信できなくなってしまっているというの!?」
 ただ、受信が何らかの事由で妨害、もしくは遮断されているというだけならともかく、此処では、通信波そのものが、痕跡すら検出できていない。私が知る限り、そんな場所は全世界の規模で考えても、ほぼ存在しないといって良かった。そして、私が今いる場所は、その数少ない例外にも、一つとして符合しなかった。
間違い無い。此処は、私の知っている地平から、完全に隔絶された環境。
 もはや用をなさなくなった集積回路を、スカートのポケットにねじり込むと、私は、唯一の情報源に、いち早く向き直った。
「・・・『あんまりにも分からない事が多すぎて、何から訊いたらいいのか分からない』って顔をしているね。そういう時には、さくらもちだよっ♪」
 ポーチからいそいそと水筒を取り出し始める楓。詳細な理由は不明だけれど、さくらもちは彼女のお気に入りらしい。しかし、好きな食べ物に関しては、私にも譲れない一線があった。
「私はさくらもちより、氷砂糖がいいから」
近くに落ちていた袋を自分で拾うと、透明な結晶を一粒だけ、口にふくむ。たとえ、楓の手に収まっているのが万福屋のさくらもちであったとしても、その辺りについては理屈ではないのだから、私にも仕方がない。
「そうなんだ・・・だったら、この余ったさくらもちは私と由良ちゃんで半分こしちゃうけど、別に、後悔はしないよね」
「その話題はもういいから、はやく楓が知っていることを全部話してよ。何もかも分からないような状況には、耐えられそうにないの」
 先を促す私とは正反対に、余裕で包み紙を取り出す楓と、その包みを珍しそうに眺めている由良。ピクニックにでも出かけているかのような様子の二人を見ているだけの私は、口の中で少しづつ小さくなっていく欠片を舌先で転がしながら、この風変わりな連れ合いをあらためて観察していた。どうして、初対面なのに、こんなに馴染んじゃっているのかな・・・
「はい。半分この半分、純理にあげるね」
「だから、私はいらないって言ってるのに・・・」
 ついっと差し出された1/4サイズのさくらもちを、ついと押し返す。この天敵に主導権を握られるなんて、私のプライドが許さなかった。
「そっか、純理ちゃんは由良ちゃんのことが好きなんだね」
「どうして、そうなるのっ!!」
 思わず、手持ちの氷砂糖を一粒投げてお見舞いするけれど、これくらいで動じるような性格ならば生まれてこの方、今日という日までお天気娘を続けてはいない。楓は、心なし痛そうな表情で額にはねて落ちた氷砂糖を拾うと、ぽいっと口の中に放り込んだ。
「せっかちだなあ、もう。それじゃあ、純理ちゃんが多分一番知りたがっている『ここが一体どんな場所なのか』ってことから、お話しするよ・・・ほら、このさくらもち、やっぱり美味しいでしょ。由良ちゃんには、説明に使わない、残りの半分もサービスしちゃうね♪」
 かくして、ようやく楓の春世界ガイドが始まった。
「純理ちゃん。このさくらもち、横から見るといくつもの構造に分かれているよね」
「そうね。餡を薄皮が包んでいて、薄皮をさらに葉が包んでいる」
「問題だよ。この中で、表のくせに裏とつながっている場所はどこ?」
「それは・・巻いた薄皮の表面が裏面にくっついている接着面でしょう」
『常識で考える限りはね』と、胸の中で付け足す。余分な話は、出来るだけ省略したかった。
「ここは、ちょうどそんな感じの場所。普通なら見えない裏側の、どこかに広がっている空間なんだって。小里(こさと)ちゃんの受け売りだけど、何かきっかけがあったり、皮が破れているところから迷い込んじゃうこともあるらしいよ。それで、今回はたまたま私達が来た、というわけ」

 〈一問多答(ノーヒント)〉
 ①楓は、『小里ちゃん』なる人物に、騙されている。
 ②私自身が、とんでもない悪夢を見ている。
 ③『小里ちゃん』が、楓の知的レベルに合わせて、極端に簡単な説明をした。
 ④由良は悪魔の使いか何かで、楓と私は、異界に拉致された。

 正解は・・・・もう、どうでもよくなってきた。脱力すると、楓がさっき降らせた桜吹雪のベッドに倒れこむ。ほのかに甘酸っぱく薫る地面が、ほんの少しだけ心地よかった。
 思い切り、深呼吸をして、両手両足を投げ出して空を見つめる。一度も、見たことさえ無いはずなのに、なぜか、心をさざめかせる景色。私に出来ることといったら、楓についていった先にいるであろう小里ちゃんなる人物に、もうちょっと突っ込んだ話をしてみることと・・・それに、突如として私の世界に現われた、柏風由良という存在について、考察していくこと。どうして、ここまで私に悪影響を及ぼしているのか、その理由が気になる。
「わたしが、どうかしたの?」
 不意に視界の上側から生えてくる由良。自覚がまるで無いだけに、かえって性質が悪い。
「ゆ・・・由良は知らなくていいことなの!」
 思わず起き上がって身をかわそうとしたけれど――ちょっと考えれば、分かったはずなのに。2.3秒後、自分のおでこに感じた由良のキスのやわらかさに、私の理性はきれいに壊れて、なくなっていた。
「きゃはははっ♪ 純理ちゃんが、くるくるのゆでだこになっちゃった~」
 お願い、もう勘弁して・・・・もしも、こんなのが恋愛感情というものだったら、私は一生恋なんてしなくていい。この際、プライドを捨ててお願いしてもいいから、いつもの理性的な私に戻して下さい。朦朧とした思考の中で、こんな感じのフレーズだけが、いつまでも、私の脳内でリピートし続けていた。

 額に乗った濡れハンカチのひんやりとした感触に、重い瞼をゆっくりと開ける。太陽の傾きぐあいからすると、由良にキスされた時点からは、優に数時間は経過しているようだった。
ちょっと離れたところでは、遊び疲れたのか、楓がすやすやと寝息を立てている。わざわざ私なんかに構わなくたって、友達に不自由したりはしないはずなのに。私は、楓を起こしてしまわないように、そっと近づくと、借りていたハンカチを楓の額の上に返した。
「どうして、つまらない意地なんて張っているのかな・・・」
 自分でも分かってる。楓を、ここまで拒絶する理由なんて、特に存在しないということを。しかし、今まで大して親しくもなかった子に、急に友達扱いをされても、どうしたらいいのか分からなかった。
 何もしない時間。
 何もすることが無く、ただ流れていくだけの時間。
 何も、できない時間。
 私はただ、桜色の薫風に身を任せていた。
 楓の寝顔を観察して、静かに降り積もっていく桜の花びらを両手でかき集めて、いっぱいの量になったら、上からまとめて『ふぁさっ』とふりかけていく。
 楓の全身の三分の一くらいがミルキーピンクに染まった頃には周りに花びらも無くなってきたので、それからはひたすら氷砂糖を口に含んでいた。
 容器に八割近く入っていた氷砂糖の残りもそろそろ寂しくなってきたという頃、私ははっと思い当たる。楓が、私にしたように、私もまた、楓と一緒に遊んでいたのかもしれないと。
「べつに、遊んでいたわけじゃないんだから・・・そう、私は単なる仕返しをしただけなんだから・・・」
 ひとり、誰に聞かせるでもなく弁解をして、桜雲の切れ間から覗く空を見上げようとした時、数多の虹色の玉が、踊るように軌跡を織りなして私達の傍を流れていった。
 その、儚くも美しい泡沫の輝きは、綺麗なはずなのに、なぜか、泣きたくなってくるような哀しさを、内に湛えていて・・・心を奪われてしまった私は、気がつけば身一つのまま、その流れを遡っていた。
樹々の間を抜けていって、生まれたてのみどりを踏み越えて。時には、気まぐれな風の声に惑わされながら、私は声無き言葉の主を捜し求める。
 理性的には、まるで説明できなかった。けれど、あらゆる生命が歓喜の歌を奏でている中、このひとつの音色だけは、ひとりで寂しがっているように、思えてしまったから。時を忘れてしまうくらいに、心を共振させてしまったから。

「――・・・・・・」
 無数のシャボン玉を風に流していたのは、ところどころにフリルをあしらった、黎明の海を思わせる群青の服に袖を通した女の子だった。水晶細工のような指を操る度に形成されていく光の珠は、あたかも意志を持った生物であるかのように変幻しながら、風に抱かれてゆく。
無駄のないすらっとした体つきに、艶のある綺麗な髪、人形のように整った顔立ち――一度でも見たら、目が離せなくなってしまいそうな外見を有していた女の子は、私の存在に気付いてからも、指の動きを止めたまま、表情を抑えた瞳に私の姿を映して静かに黙っていた。
私と、女の子の姿を映したシャボン玉も、やがてすべてが飛んでいってしまって、後には、樹々や草のざわめき、それに、風の音だけが、辺りを満たしていく。
 掛けるべき言葉を見つけられないまま、私と女の子は、互いの様子を見つめ合う。しかし、女の子はやがて踵を返して、樹々の間に消えていこうとした。
「・・・・待って。私、あなたに近づきたくて、ここまで歩いて来たの」
 姿を見失いかけた焦りから、ほとんど理由になっていない経緯を伝える。その声が届いたのか、女の子は、半身だけを私に振り向かせる。
「・・・・・私のことを思ってくれるなら、どうか、そのまま引き返して下さい。それこそが、貴女にも、私にも最良の選択になります。自ら不幸を作り出すか、すぐに戻るべき道へと引き返すか。いま一度、再考してください」
 そして、名前すらも聞けないままに去ってしまった女の子の後姿を、私は追いかけることができなかった。生半可な覚悟でこの子を追いかけたら、二度と、帰って来れなくなる。そう、直感が告げてしまっていたから。

 そして・・・少し迷いそうになりながらも元の場所に引き返した私は、まもなく目が覚めた楓を少しだけからかってから、桜吹雪をかけ合って遊んだ。それは、随分久しぶりに体験した友達との遊びの時間だったけれど、一方では、出会ってからすぐに姿を消してしまった群青の女の子のことが、ずっと印象に残ってしまっていた。
「あっちの方に小川があるの。由良ちゃんは先に遊びに行っているから、私達もこれから一緒に遊ぼうね」
 握られた手は温かくて、その足取りははずむようで。目の前にあるものを、まっすぐに見つめて進んでいく。私は戸惑いを残していたけれど、右手を包んでいる楓の手のひらを振り払おうとは、何故か思わなかった。

 楓が案内してくれた川は、助走をつければ飛び越えられるかどうかというくらいの川幅の、こぢんまりとしたものだった。水遊びが出来るけれど、間違っても溺れるようなことはありそうにない。その点、この二人にはちょうど良いサイズと言えなくもなかった。
由良は足が濡れるのが嫌だったのか、肘のあたりまで腕まくりをした両手で、さかんに水の中を探っている。
「お待たせ~。なにか、面白いものでも見つかった?」
「ほら、小さい魚つかまえたよ。あと・・・・これは、なにかな?」
ぬるっとした光沢を帯びた生き物が、逃げるのも億劫に見えるくらいのペースで、もぞもぞ動いている。
「えっと・・・純理ちゃん、知ってる?」
「亀。私も、直接見るのは初めてだけど、生物図鑑では定番よ」
この後、私は、水辺の生き物の名前を片っ端から聞かれては、答える役になってしまった。変な遊び方だと思ったけれど、別に、悪い気はしない。
「すご~い。純理って、なんでも知ってるんだね」
「純理ちゃんは、私達の学園の特待生なの。勉強が苦手な私とは、大違いなんだから」
目を輝かせて褒めてくれるのは嬉しいけれど、私は、素直には喜べなかった。
「そんなことないよ・・・私は、こんな事にしか興味を持てなくなってしまっただけだから。同級生が話していることなんて、ぜんぜん見当も付けられない、つまらない優等生なの」
 みんなが流行の番組や雑誌を見ている時、私は、図書館で論文を読み耽っていた。真偽さえ知れないような、無責任なうわさ話に花が咲いていた時、私は、手帳を見つめながら、数式を気ままに変換して、その意味について考えていた。そんな毎日だったから、私は自然と一人になっていた。むしろ、この状況の方が不自然なくらいに。
「でも、純理ちゃんは、それでいいんじゃないかな。誰に会ってもおなじだったら、そっちの方がつまらないもの」
なんとなくだけれど、楓が、誰とでも友達になれる理由が、分かったような気がする。良いところ、素敵なところを見つけるのが、人よりもすこし上手で、自分のことを飾らず、長所も短所も、素直に受け入れられる。そんな心を持っているから、自ずと、関係が生まれていく。
「それに、純理はいまのままでも魅力的だよ。わたしと純理が惹かれあったことが、何よりの証拠だから・・・」
 すっと伸ばされた由良の右手。それを、私は自己保存本能と反射速度で、きわどく回避した。

 沈みかけの陽が照らす小道を、三人で歩いていく。目的地は、楓と、他にも一足先にここを訪れることになった子が転がり込んで、お世話になっているという『小里ちゃんのお家』。
 あの初対面以来、何度も身をもって学習したこともあって、楓には、私の安全圏を確保する役になってもらっている。ひと回り体の小さい由良の手を握っている楓の姿は、まるで、仲のいい姉妹みたいにも見えてくる。この二人は、いろんな点で、似ているのかもしれない。
「今日は、楽しいこといっぱいあったね」
「うん♪ 純理ちゃんとも、ゆっくりお話ができたし、由良ちゃんともお友達になれたよ」
 しかし、どうして、こんな右も左も分かっていないような環境で、楽しんでいられるのか。私には、理解できなかった。
「楓は、何を見つけたの?」
 両手で由良の髪をいじって遊んでいた、楓の手が止まる。
「こんな、明日も分からない世界の中に、求めるものが見つかったの? もし、そうだと言うのなら、楓は、この場所に、いったい何を見つけたというの?」
 金の絵具を一滴溶かしこんだ夕焼けの中、楓は優しく微笑む。
「どこにだって、幸せの欠片は落ちているんだよ。私の場合、それは友達。だから、私は巡り逢いたい。暖かい日も寒い日も。そんな自分が大好きだから、いつも心は南向き」
 私の目の前に立っているのは、もちろん、空を翔び損ねたへんてこな子で、それ以外には、普通に学校に通っていて、でも勉強よりも友達のほうがずっと好きな、流行ものと、万福屋のさくらもちが大好きな高校生。それでも、今の瞬間だけは、『地上に落ちて、羽根を焼かれた落ちこぼれ天使』くらいには、格上げしてあげてもいいと思った。





コメント
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マジですか、この作品はこれが序盤ですか。内容がすごすぎる・・・

序盤で感動してる自分はたぶん読み終えたら感動しすぎて心臓とまってるんでは・・・

楓ちゃん萌え!
2010/01/24(日) 05:35:51 | URL | by架空の大空 (#-) [ 編集]
 この作品は、主題に合わせて「12章編成に決めて、章タイトルをつなげばそのままあらすじ文になる」という悪戯が仕掛けてあるので章ごとの分量は短いです。
 受験勉強の息抜きにはちょうどいいかもしれませんねw

 楓ちゃん萌えとはお目が高いですね♪ この子は何気に重要人物ですので、いろいろな形でおいしい所をもらっていきます(?)
2010/01/24(日) 12:00:07 | URL | byすずっち (#BhkiWIsU) [ 編集]

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