Lunatical life in broad daylight
へにょ~~~…… リ ツ 。ヮ ツ。
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ゆらめきのプレリュード⑦
 第七章 のばしたゆびに

 月も星も見えない夜闇は、深さを増すばかりだった。行き場をなくした言葉を抱えたまま、焦燥感だけが募っていく。
 楓と希が邸内から姿を消したのは、もはや明白だった。しかし、冷たく激しい風雨の中では、声もまともに伝わらない。むやみに捜し回った所で、見つかる確率は限りなくゼロに近かった。それに、外灯も照明も全く無い闇の中で迷ってしまったら、少なくとも翌朝になるまでずっと、この風雨に打たれ続ける事になる。そうなれば、身体を壊すくらいでは済まないかもしれない。二人の間に自分から割り込もうと決めてしまった私はいいとしても、そんな私の我侭のために、他の誰かを巻き込むのは避けたかった。
 小里さんは、一切の前触れも無しにいなくなった二人のことを、別に怒ったりはしなかった。ただ、何も出来ないと分っていても居間に留まっていたみんなを、それぞれの寝室へと帰らせただけだった。

「楓と希のこと、捜さないの?」
 布団を敷き終わったところで、由良が尋ねてくる。私と由良がそれぞれ自分で敷いた布団の間には、ぽっかりと一人分の空地ができてしまっていた。そこは、本来なら楓がいるべき場所。私と由良が直接接触したりする事態を未然に防ぐための緩衝地帯として、楓の定位置は自然に三人の真ん中になっていた。
「捜しに行っても、二人がすぐに見つかることなんて、望みようが無いもの。それに、由良と二人っきりの時だからこそ言えるけれど・・・状況によっては、白梅寮に二度と生きて帰って来ることができないかもしれない」
 自分で口にした言葉なのに、身体が強張っていく。しかし、恐怖を実感することもできないような人間に、命や生死というものを軽々しく語る資格は無い。私は、震えそうになる手足を必死に抑えながら、楓の敷き布団を、強く両手に掴む。
「・・・だから、楓が帰ってきた時に寝る場所くらいは、あらかじめ先に用意しておいてあげないとね」
 ぽっかりと空いていた隙間に向かって、私は押入れから出した布団を思いっきり投げ出した。
「行こう、由良。ずぶぬれの天使と、迷える子羊を迎えにね」

 半乾きのままになっている制服に袖を通す。肌にひやりとした感触を感じるけれど、完全に乾いていたとしても、外に出てしまったら一分と持たずに濡れてしまう。そんなものだと一度思ってしまえば、大して気にならない。スカートのポケットに壊れた手帳を収めて、その他の、果たして役に立つかどうか微妙な小物類も、いちおう愛用の手提げバッグに詰めて持って行くことにする。
 そして、ある意味、バッグの中身以上に役立つかどうかが不安な由良の準備が終わってから、私達は、淡く蛍石に照らされた廊下へと、足を踏み出した。薄明かりに浮かぶ邸内を、できる限り静かに歩く。その先にあるのは、美月が居室&作業場&寝室として多目的に活用している書院。日常では特に意識していなかったけれど、神の手と想造の力を自在に操る想天界の第六皇女が、居室から徒歩4分の部屋に棲み込んでいて、しかも、自由に会いに行くことができるなんて・・・こんな立地は、望外どころか、一生分の運を使い果たしても、なお手に入らないかもしれない。
「よかった・・・光が漏れているということは、美月もまだ、起きてくれているみたいね」
「美月に会って、どうするの?さっきも居間でずっと一緒にいたのに」
「その理由は・・・」
 言いかけたところで襖が開き、数十、いや数百もの小鳥が、一斉に部屋から飛び出していく。外へと飛び立った小鳥の群れは、間をおかずに数十羽の規模で編隊を組み、矢のように強風の中を翔け、暗雲へと吸い込まれていく。廊下へと出て、その様子を姿が見えなくなるまで観察していた美月は、あっけに取られたままの私達にくるっと振り向くと、さも当たり前のことのように、私達に向かって手招きした。
「頼られるのは、もう慣れているから。純理と由良の組み合わせなら、いつでも歓迎するよ」
 円筒状の素子ペレットや精密針などが文机の上で無造作に散乱していたり、数十種類の瓶や薬棚が部屋の片隅に置かれている事を除けば、美月の書院も本質的には取りたてて他の区画と変わりのない造りをしている。しかし、特別な設備が無くても、素材となる元素とそれなりの知識、それに集中力があれば、美月はあらゆるものを構成することを可能にしてしまう。水と炭素源を利用した氷砂糖の作成なんていうのは余技もいいところで、その気になりさえしたら、数日を待たずに機能性分子集積体や簡素な精密機械、ひいては先刻に飛び立っていった小鳥のような擬似生命様のデバイスに至るまで、一からつくりあげてしまう。それら技術の核が統一力であり、それをイメージ通りの形態として想造に応用する、技術力だった。
 私は、部屋の中のものにいちいち手を触れようとする由良の襟首を掴むと、その身体を右手で効率的に押さえ込みながら、左手でポケットの中をごそごそと探る。
「細かい挨拶を抜きにして、要件だけを話すと、この手帳を診て欲しいの」
 亜実の手洗いが直接の原因で仮死状態になってしまった手帳。これを、生き返らせることができれば、楓とメールや通話のやりとりが再び可能になる。それどころか、楓が、位置情報のパーミッションを開放してくれていら、私達は、その場所へとすぐに駆けつけられる。性能的には、所詮、間に合わせ程度の機能しかない携帯端末に過ぎないけれど、楓とのホットラインの一端が結ばれている唯一の機械は、私にとって、数少ない希望の一つだった。
 美月は手帳を開くやいなや、精密針を滑らせて内部構造をむき出しにすると、目にも止まらない速度をもって、走査をかけていく。ものの数分も消費しないうちに、回路や部品の内部も含めて現状把握を完了してしまった美月は、軽く感嘆のため息を吐いた。
「うっわぁ・・・さすが、私が酵素の分子設計から手がけた洗剤は違うね。強力な分解酵素の力で、塩基演算機が殆ど100%消失しちゃってるよ」
「美月にとっては、嬉しい結果なのかもしれないけれど・・・」
 私の心配をよそに、美月は手帳を机の上に置くと、今度は人間離れした速度と密度で紙面に図形や文字を刻み込んでいく。
「使い物にならなくなった部分を洗い落とす手間が省けたから、部品の交換と無機デバイスの分解洗浄をする良い機会になったね。これならあと2時間53分――処理速度が3割落ちても構わないなら、30分もあれば修理できる。純理の行動原理と現時点での状況から判断すると、オプションは後者に決まりね」
 分解した部品の内部に構成したゲルを詰め込み、それを密封、切断。その場でイメージした集積回路が、変幻自在に描く軌跡と曲面に沿って、次々と形成されていく。分解、切断、物質構成、形状加工、局所変化・・・全ての精密加工の工程を、たった一本の精密針と思い描いた図面から、しかも、神速で完成させていく美月の芸術的な所作に、私は息一つ、瞬き一つさえも惜しんで、見入っていた。
「・・・私も断片を制御できたら、そんな力が使えるようになるの?」
 素朴すぎる疑問が口を突いて出る。確認した訳では無かったけれど、美月ほどの技術者なら、断片やみんなのことも既に知っているような気がする。美月も、私の真意を汲み取ったのか、細かい経緯を訊いて来たりはしないで、答えだけを返す。
「純理が詳しい事情を知らないという前提で話すと、森羅万象の全てを記述する聖式のオリジナルは、二十六の独立変数から構成されていて、各断片は、それぞれの独立変数を象徴していると言われているの。もっとも、私が今行使しているのは断片の能力じゃなくて、電磁素子を活用しているだけだから、その辺りについては、認識してほしいけれどね」
「それって・・・・つまり、みんなが持っている断片の動作原理は、全く違うものだっていうこと?」
「もちろん、基本的な素材は同じだから、共通点も少なからずあるけれど・・・少なくとも、私や他の誰かを模倣するよりも、ずっと良い使い道があることは間違いない。今は、何よりも、自分を信じていて」
 見つめられて、気恥ずかしくなった私は、心臓の上に手を当ててみる。掌の先、わずか数㎝奥の体内に溶け込んでいるにもかかわらず、使い道はまったく分からないなんて。自分でも、滑稽な話だと思う。
「今度は、私からの質問――純理が望む未来は、もう決まっているの?」
 美月が言い終わると同時に、残像すら見えそうな程の速度で動かされていた精密針の先端が、完全に静止する。問いかける美月の表情は特にいつもと変わっていないけれど、今まで手帳の修理に分散させていた意識の全てを注ぎ込んで、私の視線の先や瞳孔の動き、息遣い、指先の微細な動きの一つに至るまで、私という存在のあらゆる挙動を観察していることが、肌で感じられる。もしかしたら、心臓の音や肌の温度まで分析されているのかもしれない。
 一切の圧力を掛けてこない代わりに、あらゆる情報を吸収する美月の視線を受けて、私は、この先の会話において、心の動きの全てを見透かされることを悟った。今の美月には、つまらないごまかしや嘘は一切通じない。率直に、正直に心のうちを話すことが、最良の手段だった。
「私は・・・未来の姿なんて考えていなかったから、訊かれても今はまだ答えられない。でも、『断片』という、結局は道具に過ぎないものをどうこうする為に、私達のうちの誰かが不幸になったり、傷ついたりしてしまうのは、納得できないって、思ってる」
 ひとつずつ、ゆっくりと言葉を選んだ私に、美月は更なる思考を促すように問いかけてくる。
「純理は、個人的な情感にばかり目が行っているけれど、事の本質はそんなものじゃないよ。此処を訪れるまでの経緯こそ、それぞれ違っているけれど、私達は、望む望まざるに関係なく、選ばれてしまった人間なの。白梅寮を中心に存在している七つを含む、二十六の断片。それを、これから、どのようにどう扱っていくのか――それを決定するという行為は、人類史の道筋を決定する・・・言い換えれば、十全世界に生きる、百億人以上もの人間の生涯や、生死を左右するほどに重大な意味を持つの。そのことを、まずは認識して」
 批判することも、私の不明を責めることもしないで、伝えるべき事柄を、淡々と解りやすいよう、配慮しながら語っていく。初めて絵本を見る子供に読み聞かせをするように、美月は、私がこれから進みうる道筋を、徐々に明らかにしていこうとしていた。
「この状況を維持した場合、影響力は局地的な範囲に止められるかもしれない。しかし、その一方で、特異的な能力を持つ人間や、世界の安定を脅かしかねない装置の発生を誘発するかもしれない不確定要因が、世界に二十六個も存在し続けることになる。断片のひとつひとつは、現在の技術や資源では二度と再生できない程に希少で、しかも優れた性能を持っているけれど、それらが常に人々の幸福を目的として使われるとは限らない。
 しかし、そうかといって、断片の存在を歴史から完全に抹消してしまう行為も、かけがえのない過去の遺産を喪失する結果だけには、止まらないかもしれない。後の世に断片の力が必要になる事態が訪れたとしても、現在の技術、資源水準では、二度とそれらを再生させることはできないのだから。そうなれば、私達は取り返しのつかないことをしてしまった事になる。
 そして、最後の選択肢は、二十六の断片を全て収集して、制御プログラムを再びロードすること。それが実現した時、聖体はこの世界に再臨し、未来の全てが限りなく完璧に近い精度で予見される時代が訪れる。災厄を予見することが可能になって、一切の無駄な行為が無くなる一方で、各個人の一生が誕生する前から予見され、すべての行為の結果が、事前に決定されてしまう時代が訪れる。それは、ある意味ではとても幸福なことなのかもしれないけれど、提示された『未来』のすべてを受け入れることができるほどの強さを持っている人間は、実際には殆ど存在しないのかもしれない。
 つまり、結局のところ、どの選択肢を選んだとしても、最善の結果が保障されるということはない。どれが正解かなんて、楓にも、希にも、他の誰にも、解ってはいないの」
 できるだけ簡単に、しかし、要点は外さないように。美月は細心の注意を払っていたけれど、由良はかなり早い段階から、夢の世界に入ってしまっている。正解が解っていないというのは、曖昧な結論だと言えるけれど、答えが簡単に解かるような話だったら、美月はとっくに最適な選択肢を実行していたに違いない。限られた選択肢の中で、「何を優先して、何を目的としていくのか」。あらためて提示された問いかけの重さに、私は、思わず心が揺らぎそうになる。
 美月は、おそらく私以上に心の動揺を見抜いているに違いなかったのに、突然、ふと私への注視を解いてしまった。美月はそのまま背を反らして、宙を見つめるかのような素振りをするけれど、その瞳には、何ひとつ映してはいない。
「・・・・純理にこんな説明的な話をしたのは、何故だったと思う?」
 ついさっきまでの明晰な筋立てとは打って変わった、ちぎれ雲のような言葉。美月の真意が掴めないことに戸惑いを覚えた私は、常識的な答えに徹するしかなかった。
「私があまりに無知であることを、許せなかったから・・・かな?」
「最初は、純理の立場を確かめるつもりだったけれど・・・ちょっとした、思いつきだったの。もしも、純理が軽薄な決心やつまらない動機に動かされているようだったら、直しかけていた手帳に針先を突き刺して、この場で元素還元してしまうべきなのかもしれないって――実は、そんなこと考えてた」
 何気ない口ぶりだったけれど、美月の一言に、私は思わず背筋が寒くなる。普段の様子からは想造しにくかったけれど、美月がその手に有している力は、あらゆる物質を創成できる力であると同時に、あらゆる物質を元素や素粒子にまで還元することも可能とする解体の力であるという事実を、実感させられた。
「でも、話しているうちに思い出したの。究極的にはどうしたら良いのか、私自身もぜんぜん判ってはいないのだから、他人を試したり評価したりするには、まだちょっと早かったということをね・・・」
 そこまで話すと、美月は傍らの小瓶を開けて、中に入っていた液体から1本の草花を構成し始めた。あたかも生物の成長記録を高速再生で見ているかのように、亜種生命の一個体が創成されていく。
「こうして、生命の起源すらも操る術を身に付けているのに、時の迷路の中では何の解決策も見出すことができない・・・それでいて、純理には底意地の悪い問いかけをするなんて・・・私も、結局は不条理なのかもね」
 創りあげた一輪の花の出来映えに微笑むと、美月は新たに生み出した命を水差しへと移す。その間に気を持ち直した私は、美月の世界にもう一歩だけ深く踏み込んでみたいと思った。
「技術の世界に生きる美月の目には、最後の選択肢として提示した聖体の再臨――遺失技術の復活は、どう見えているの?」
「私の個人的な見解を述べるなら、それが実現したとしても、別に構わないと思うよ。道具が不幸を生むとしたら、それを造った製作者か、使用者のどちらかに欠陥があったんだと思う。かつての人類は、道具を作ることばかりを考えていて、適切に使うということを軽んじていた。だから、膨大な犠牲を払って聖体を創っても、幸せになることが出来なかった。その可能性は極めて低いだろうけれど、もしも、人が人らしく、賢明たろうという努力を怠らないと、そう誓うことができるのであれば、私はその再臨を、敢えて止めようとは思わないよ」
 とくに考える様子も見せずに、美月は流暢に答えていく。おそらく、自分の見解として既に考えをまとめていたのだろう。
「つまり、『人はもっと、謙虚にならなければならない』っていうこと?」
「むしろ、その逆かな。人は、どこまでも手を伸ばしても良いの。そうでなければ、人は星に憧れることも無ければ、夢を見ることも無かっただろうから」
 美月にとって、それは自明の理だったのかもしれない。どこまでも、真直ぐに手を伸ばしていきたいという心が、捉えられなかったものを捉え、夢を世界に体現し、天の先にある星々にまでも到達せしめた、力の根源なのだから。理想に憧れ、それを想う気持ちこそが、あらゆるものを創り出していく。その思いを引き継いで、体現してきた意思を体現した存在こそ、美月が属している、想天界に他ならなかった。
「純理は、いつも理屈で動きたがっているみたい。でも、本当の心の底では、感情を捨てきることが出来ないで、いつも戸惑っている。だから、一たび理屈と感情が対立してしまったら、その矛盾を解消することができない――そんな性格は、希と似ているね」
 不意に希の話を切り出したかと思うと、美月は私の返事を待たずに、手帳の修復作業を再開する。美月が心の中で何を思ったかは分らないけれど、少なくとも、私の端末を直してくれているということは、事実だった。
 しかし、いつの間にか夢の世界から戻ってきた由良が、更に余計な一言を付け加えてくる。
「うんっ、だから、純理は面白いんだよ♪」
「・・・二人とも、褒めているのか、けなしているのか、はっきりさせて欲しいんだけれど」
「強いて言うなら、投げたボールに跳び付く仔猫を、理屈抜きでかわいがる心境に近いかも。でも、ささやかな期待も込めているから、総合的に解釈したら、褒めていると、考えられないこともない・・・かな?」
 リクエスト通りの率直な評価に軽い目眩を感じそうになった私の手の上に、元通りの姿へと組みあがった手帳が渡される。
「物質構造を定着させるために、あと二十分間はスリープモードを強制してあるけれど、その時が来たら自動で起動するから。それどころか、無理に立ち上げようとすると、確実に不幸になるからねっ」
 不幸の具体的な中身については訊いてはいけないような気がしたので、これ以上は、深入りしないことにする。それよりも、これから先の計画を考える方が重要だった。
 楓と希の二人を捜しに外に飛び出すのは、確定事項だとしても、私の手帳が機能を取り戻すまでの20分を、いかに有意義に活用するか・・・即座には、思いつきそうに無かった。
「私の放った小鳥が無事に任務を遂行していれば、その手帳が回復する頃には風雨は一時的に弱くなる。それまでの間、純理と由良はきくなに会うといいよ。そうすることは、決して無駄にはならないと思うから」
 目的を妨げるものであるのなら、気象すら直接操作して適したものに変えてしまう。極めて高度な技術に支えられているからこそ可能な、桁違いに広範囲な空間への干渉。まさに美月の本領発揮だった。
「美月は、行かないの?」
「純理が部屋に来るまではそのつもりだったけど・・・たった今、やりたいことが沸いてきたから、今夜は内にこもって留守番するつもり。そういう訳で、後は任せたから」
 こんな非常事態を放置してまで、没頭したいことがあるなんて。「美月は何がしたいのか」という疑問は、もちろんあるけれど、それ以上に問題なのは、美月が無責任なことにこの先の展開を私と由良に白紙委任するつもりだということだった。しかし、こんな私にも、二人より三人の方が心強いことくらいは理解できている。
「ちょっと待って。私は、何も判っていないも当然なのだから、ちゃんと本質を理解していてくれる誰かが付いていなかったら・・・」

ぺちっ

「ひゃっ!」
 なんとか思いとどまらせようとした刹那、額をぺちっと指先で弾かれる。美月の予期しない行動に、私は思わず声をあげてしまった。
「この私が認めた航術士に、しかも生きた時針が始終くっついている――これだけ恵まれてる条件で、間違いを犯す訳がないでしょう。純理と由良は、見ていてまどろっこしい一面はあるけれど、大局を見間違えることはまずありえないし、万一のことが起こったとしても致命的なミスにはならない。想天界の皇籍にかけて、私が保障する」
 美月の基準では褒められているらしいけれど、そんな抽象的な直感で納得しろと言われても、さすがに無理があると思う。しかし、美月は、これ以上時間を取らせるなと言わんばかりに、止めとなる一言を放った。
「こういう時にはね、中途半端に理論武装するよりも、純粋な気持ちの方がずっと役に立つの。だから、あとは純理と由良の想いと気合いで、思う存分に動くこと。きっと、その結果こそが、最適解になっているはずだから!」
 かなり強引な指示だったけれど、さしたる反論も出来ないままに、部屋の外に押しやられてしまう。正直に言うと、私の心の中は、未だにはっきりしてはいない。けれど、事態がここまで差し迫ってしまっている以上、もはや一切の言い訳は許されなかった。私に残された時間は、残り約20分。時の針は、すぐ目の前に迫りつつあった。





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